ちゃれの雑談ルーム

霊ちゃんの行くえ


 
          ♪ピアノの霊ちゃんの行くえ


     帰国した あくる日がピアノのレッスン日になっていた。
     もう 2ヶ月ちかく練習してないのだから、
     レッスンにはならない。
     ピアノの先生にお土産を持っていくということで・・・
     と思いながらも 一応練習をしてみた。

     ところが 驚いたことに、
     旅行の前には 弾けなかった難しい個所が、
     すらすらと弾ける。
     どんなに練習しても、突っかかる場所が、難なく弾けた。

     やったー 霊ちゃんは わたしと一緒に日本に来たのだ!

     レッスン日 ピアノの先生に霊ちゃんのことを話し、
     どんなに、上手く弾けるかを、前置きすると、
     聞いておられた先生
     「それは あなたがヨーロッパの文化に触れて、
     ヨーロッパの空気を 体で学習したからですよ」と、冷静。
     レッスンがはじまる。 

     あの イギリスのホテルの地下で弾いた時のようには
     いかなかったが、スラスラと弾きこなし、
     今までどうしても 出来なかった個所も難なく通過。
     こんなに、上手く弾けたのは初めてのことである。
     一通り弾き終わると
     先生は無言・・・しばらくあって 

     「わたしも霊ちゃんに 触らせて~」と
     わたしの手を握ろうとされた。
     「先生は上手いんだから ダメ~」
     わたしは 逃げるようにレッスン室を出た。
     先生は わたしの靴をそろえてくださった。ん?

     旅行の荷物整理やお土産配りなどで、
     1週間はあっというまにすぎ、
     やっとピアノレッスンを 再開した。
     あ・! 弾けなかった個所は やっぱり弾けない。
     いつもの私にもどっていた。

     霊ちゃんは どこに行ってしまったんだろう

       ~~~~~~~~~~~~~~~~~~


     霊ちゃんは私のピアノの実力を知って、
     がっかりしたのか、何処かへいってしまった。

     その後いくら練習をしても、上手く弾けない
     と と とっ 演奏で、
     唯一霊ちゃんのことを信じてくれた(半分?)先生に、
     「あの方は どうされました?」
     とレッスンの度、からかわれた。


     それからしばらくして、私は引越し、
     ピアノの先生から、遠く離れてしまった。
     霊ちゃんは晴れた日、ピアノからちょっと遠ざかってると
     時々現れていた。
     こんどこそ 大切に・・・と練習に励んでも、
     すぐに私を見捨てて いなくなった。 

     そんなある日
     ぼや~ぁんとテレビを見ていると、
     国際的コンクールで2位を受賞した、
     ピアニストの生活を取材した、ドキュメント番組が流れた。

     あっ あいつだ!!(失礼) あの人だ!!!
     私の霊ちゃんを横取りしたのは。

     旅行から帰って数日後 
     そのピアニストの伯母さんにピアノを習っている友達に誘われ、
     リサイタルに行った。
     テンペストもプログラムにあった。
     終了後、楽屋に付き合わされたが、
     私は 部外者なので、友達と少し離れて立っていた。

     テンペスト3楽章は綺麗だったけど、
     一楽章、もう少しダイナミックに弾いて欲しかったな~
     などと、素人の強みで、そんな事を思いながら。

     そこへピアニストがす~っとやって来て、
     私の手をとり 握手した。
     生暖かくやわらかな手・・普通は喜ぶ場面なのに、
     なぜか 私は気持ちが悪かった。

     そうだ あのとき 霊ちゃんを横取りされたのだ。
     リストの霊は ヨーロッパの人に憑いたとか
     ショパンは パリかどこかのおばさんに憑いているとか、
     私の霊ちゃんはきっと 超一流ではなく、
     そうか、2位。
     もし、これを読んだ心当たりのピアニストさんに、
     名誉毀損で訴えられそう・・・ 
     わたしが そう感じた・・ということで。カンニン。

     2年ほど前 そのピアニストのリサイタルが私の住んでる町の
     近くであった。
     都合が悪くて行けなかったけど、
     今度リサイタルがあったら、 絶対に行くぞ~~。

     そのときは私から握手を求めて、
     霊ちゃんを取り返すのだ~~。
     その日のために 練習 はげも。

                       おわり




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